ロングランエッセイ

Vol.77 北海道赤レンガ建築奨励賞「美桑」

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 平成二十二年度赤レンガ建築奨励賞に櫻井百子さんが設計した「下川町環境共生型モデル住宅 美桑」が選ばれた。北海道赤レンガ建築賞および奨励賞は、北海道と建築設計関係団体が、優れている建築であると同時にまちづくりに貢献する建築を表彰してきた賞であるが、住宅が選ばれたのは、初めてである。この住宅は、下川町が、環境省の「環境共生型モデル住宅事業」に参加して生まれたもので、北海道で活躍する多くの建築家から優れた案を公募し、その最優秀案に選ばれた櫻井さんの提案を実現させたものである。
 「環境共生型モデル住宅事業」は、全国二十箇所に建設されたが、この「美桑」は、他の地域に建てられたものと較べて、森の中にそっと置かれたような配置や合理的につくり上げられた建築的な手法と半年の冬を過ごすのに適したのびやかな空間への評価が、極めて高い。特に北海道の住宅の環境技術的なレベルが、他の都府県のものと較べて飛びぬけているといわれ、その考え方が広く一般にまで普及していると驚かれる。
 北海道では三十年ほど前に、北海道やその研究機関、大学関係、建設関係者が一体となって、省エネルギー住宅を求め、研究・実践を重ね、その成果を北海道新聞などが紙面で紹介したので、多くの消費者にまで省エネルギー的な考え方を広めることができ、北海道全体が一体となって、建築技術を一気に向上させることができたからである。
 また、早くから炭焼きや木酢液の抽出などを試みながら森林の循環型経営を目指していた下川町の地道な取り組みに対して、櫻井さんが特段の敬意を払い、与えられた条件をていねいに、そして巧みにまとめ上げて完成したのがこの「美桑」であるから、この住宅には信頼感が感じられ、心地よい。
 見学も宿泊経験もできるというので、ぜひ参考にしてほしい。

住宅雑誌リプラン・92号より転載



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