ロングランエッセイ

Vol.80 マイケル・ケンナ

URB HOUSE PHOTO
Hillside Fence, Study 2, Teshikaga, Hokkaido, Japan. 2002
Photograph ©Michael Kenna / RAM
www.michaelkenna.com

 イギリスの写真家で、冬の北海道の景色に魅せられ、何年もかけて北海道の魅力を撮影したマイケル・ケンナの写真展を数年前に見た。それまでに見たことのない、鮮烈で抽象的で、そのうえ温かさを感じられる写真が並んでいた。モノトーンの冬の景色を爽やかな透明度の高い、詩情豊かな風景に仕上げていて、新しい北海道に触れたような衝撃を受けた。友人に「見たか?」と確かめるほどに興奮した。
 会場では、マイケルの撮影現場の様子が上映されていたが、一枚の写真を撮るために、その時の光や雲や風の状況を確かめながら、そして雪の上に顔を付けるようにカメラを覗き込んでいる姿に感動した。そこには私たちが見過ごしている一瞬のなかに、心を揺さぶるような瞬間があるのに、気が付かないだけなのだと思った。私たちは、不用意に美しい瞬間を見過ごしているに違いない。
 北海道のように緯度の高いところの朝夕の太陽は、低くほとんど水平な陽射しとなる。東西に走る札幌の街では夕方、西に向かう時は大変で、日除けをいっぱいに下げて運転しなければならない。しかし、この水平な光が、住まいに魅力的な瞬間を造りだす。朝早く、東の窓から射し込む光は、まるで家の中をまっすぐに通り抜けるように、住まいの奥まで爽やかな明るさを届かせる。わずかな時間であるが、家の中が朝日に輝くのである。特に陽射しは、刻一刻と変化する舞台照明のようなものである。夕日や月明かり、雪に反射した光などが、知らないところで美しい風景を造りだしているかもしれない。
 マイケル・ケンナが一枚の写真を撮るような情熱で、探してみたらどうだろう。

住宅雑誌リプラン・95号より転載


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