ロングランエッセイ

Vol.91 達人たち

URB HOUSE PHOTO

 今年、建ててから二十五年経っても、魅力を失わない建物を表彰する賞をもらった。麻生のGさんの庭で、これまでブロック住宅を造るのに一番世話になった達人たちを招待して、内輪のお祝いをした。建築家仲間からも「積み方が美しい」と言われるブロック積みの達人のMさんとNさん、それと彼らの腕前を存分に発揮できる段取り達人のM建設専務の三人に、これまでのお礼と一緒にマイセンの茶碗を贈った。
 七十に近くなった彼らは、もう現場を離れたというが、昔の現場のことは細かなことまでよく覚えていた。Mさんに「そう言えば、一度積んだブロックの壁を壊せ!って言われてやったもんな」と言われて「あの頃ほど、ものに執着する元気が無くなったよ」 と答える専務の顔は、ちょっと自慢げで、ちょっとさみしい感じになった。当時の専務は、余分な話をするとギッと睨むようであったから、現場は和やかではなかった。「専務が笑った」と噂になるくらい無口であったが、そのくらいのほうが頼もしいと惚れ込んで、仕事を頼む人も居た。そういう現場では一層無口になって、目配りが鋭くなったが、おかげで出来上がった家は一緒に仕事をした誰もが自慢できる家に仕上がり、竣工の祝いで専務が珍しく酔うていた。彼らを知ったのは、建築家・上遠野徹さんの元にいる頃であるから、きっと、彼らを叱咤激励しながら立派な達人に育てたのは、上遠野徹さんではないかと思う。
 私たちも、次世代に送れる達人を育てなければいけないのだと思った。しかし、もう一度、達人たちと一緒に仕事をしたいなあ。 

住宅雑誌リプラン・106号より転載


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