ロングランエッセイ

Vol.95 粘る住宅

URB HOUSE PHOTO

 昨年の正月明けに、しばらく留守にしているブロック二重積み外断熱の住宅を訪れたら、家中がヒンヤリと底冷えがした。「こんなに寒くなるはずがない」と思い主人に問い合わせたら、家を空けた時から一ヵ月の間、暖房をすっかり切っていたらしい。冬、長めに家を空ける時は、夜なかに二時間だけ暖房を入れておけば十度より冷えることがないのに、それを忘れたという。しかしそのおかげで、真冬に一ヵ月間暖房を止めているとどのように温度が変わるのかがわかった。
 しかし、 ほぼ二十二、三度だった室温が、一ヵ月の間少しずつ下がっていっても五度位で止まっていたのは、まさに外断熱のおかげである。温められたブロックはゆっくり冷えていくが、それが外断熱されていたので、さらにゆっくり、ゆっくり冷えていったことが、はっきり読みとれる。その間には、外気が零下十度を下回る日もあったのに、室内は氷点下にもならずによく頑張った。この頑張り方が、寒さに耐えて辛抱して、我慢して、一所懸命にネバッ(粘っ)ているように思えたので、このようなブロック外断熱の住宅を「粘る住宅」と名付けることにした。
 「粘る住宅」は、エネルギー源を断たれても、窓からの日射を集めて、陽が落ちたら窓を厚い毛布などで覆えば冬の災害時でも一ヵ月くらいは充分凌げるし、たくさんの人が集まれば人の数だけ室温が上がる。これまでに造った三十軒あまりの「粘る住宅」を、冬期災害時の緊急避難先に指定するのも悪くないが、本格的に冬期災害時に備える都市にするには、三十では足りないし、「粘る住宅」だけでなく、たくさんの学校や公共施設を「粘る建築」にしなければならないと思う。
 このように「粘る」にこだわり続けている私は、さしずめ「粘る建築家」と云われそうである。

住宅雑誌リプラン・110号より転載


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