ロングランエッセイ

Vol.100 葉っぱの裏がわ

URB HOUSE PHOTO

 今年は、秋の初めに突然の雪に見舞われた。桐の葉は大きく雪がつきやすいので、事務所の桐の大きな枝が、ボッキリと折れた。同じように、事務所の壁に這う蔦の葉も、紅葉せずにほとんど落ちて、今年は事務所全体が、真っ赤になることがなくなった。
 少し前までは、ほとんど紅葉せずに落ちていたが、隣の建物が移って、朝日が真横から当たるようになってから、それまでしょぼくれていた蔦が、急に元気になって、葉も大きくなると同時に茎も長くなった。茎が三十センチにもなると葉っぱと壁の間に隙間ができる。その隙間に、春には芽が出て、葉が広がると虫が寄ってくる、卵を産む、幼虫が動く、花が咲く、雨垂れのような音をたてながら花が落ちる。蝶が来る、カマキリが来る、蜂が来る、虫を食べに鳥も来る。この隙間にスズメバチが巣をつくる、実を食べに鳥が来るというようにつぎつぎに様々な生き物がやってくる。
 壁から二十センチ位離れたところに葉が重なるから雨もあたらない、風もあたらないし外からは見えない隠れ家にもなる、建物の壁と大気との間に生まれた隙間空間だからこそ、これだけ多くの生き物がやって来るのである。
 人間のためだけを考えてつくられた家だけど、この隙間空間があるおかげで、周りの生き物の暮らしを支えているとしたら、人間だけでなく、地球に生きるものに優しい建物になっていると思う。消費電力を少なくすることだけが、環境に優しいのではなく、このような緩衝空間をつくることも充分、環境に優しいのである。

住宅雑誌リプラン・115号より転載


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