ロングランエッセイ

Vol.108 慈しむ

URB HOUSE PHOTO

建ててから三十年ほど経った家とも付き合いがあるが、子どもたちがいなくなったスペースを使って、自分の好みの空間として楽しむ人もいる。反対に子どもの残したものや増えてしまったものに埋っている人もいるが、過去への思いを断ち切れば、自分の時間を過ごせる場所をつくることができる。
 三十年の間には、家族が減ったり増えたりしながら、その家にしかない歴史がつくられていく。はじめは、家族三人の家を小ぶりのコンクリートブロックでつくったが、そのうち、娘が家を出て二人暮らしになった。しばらくして、娘夫婦が、元の家に戻りたいという時、隣の土地に小ぶりな鉄骨の家を建てることができて、別居だった祖母と三人で暮らしたので、総勢五人となった。そのうちブロック家に二人の孫が産まれて、総勢七人になった。孫のための個室がほしくなった頃には、祖母と父親が亡くなっていたので、五人であるが、二つの家の間に小さな木造で子ども部屋と交流の場をつくって、五人がのびやかに元気に暮らしている。
 小さくつくって住み方を工夫し、少しずつ増築をしながら、住み方も変えながら、より豊かな暮らし方を求めてきた。その増築のたびに、時代とともに変わっていく生活スタイルの変化に合わせた調度品や機器を整えながら、新しい暮らし方をつくってきているので、古いところが何もなく、家全体が、三十年経った今も新しい。
 子どもは「小さく産んで、大きく育てる」ことが良いと言われるが、家も同じで「小さく産んで、大きく育てる」のが良い。家も子どもと同じように、心を込めて慈しむことで、家の持つ雰囲気が決まる。「生まれより育ち」が大事なのは、人ばかりでなく、家もそうなのだ。家も「育て方」次第なのですぞ。


住宅雑誌リプラン・123号より転載


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