ロングランエッセイ

Vol.113 復活礼拝堂

URB HOUSE PHOTO

千歳からヘルシンキへの直行便ができたので、何度行っても見られなかったトゥルクの復活礼拝堂を見ようと出かけた。当日は、十一時から葬儀があるので、その前なら大丈夫といわれ、日の出前の真っ暗闇なヘルシンキ中央駅から六時過ぎの電車に乗った。
 礼拝堂は、緩やかな起伏のある針葉樹が立ち並ぶ墓地の中にあった。祭壇辺りの立ち上がる壁は高く、祭壇脇のガラス窓も大きく、想像していた親密感のあるイメージとは随分違った。
 軟らかな曲面の天井の礼拝堂には、北欧の柔らかな朝陽が、真横から差し込んでいた。ほとんどの窓が朝陽を迎えるように設けられていて、祭壇脇のガラス窓は、高さが七、八メートルもあって、祭壇は明るく、低い天井の回廊にある横長のガラス窓からは、緩やかに降りる針葉樹の林がつながるように見える。幾つかの高窓からの光は、針葉樹の影を、そのまま向かいの壁に映し込んでいた。この礼拝堂が朝陽の中で輝く、最も魅力的な瞬間を体験できている!と感激した。思い切ってトゥルクまで来て良かったと思うと同時に「建築は、内包空間こそが大切で、写真じゃ分からない。だから実際に体感しなければいけないのだ」と確信した。
 設計はエリック・ブリュッグマンという建築家であるが、この設計にあたって、「ここは、心の安らぐ穏やかな空間であり、ゆるやかな時間が流れ、すべてを受け止める慈愛にみちている。自分の葬儀はここで!」と思って欲しいと考えたに違いない。私も「ここで送ってもらえたら、嬉しい」と思った。


住宅雑誌リプラン・128号より転載


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