ロングランエッセイ

Vol.115 絶妙

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札幌駅では、いつも「やまべ鮭寿し」を買う。ヤマベは、高級寿司のコハダに匹敵すると思うくらい好きである。「やまべ鮭寿し」というように、ヤマベ四巻とシャケ三巻が並んでいるが、以前はヤマべだけが並んでいた。ヤマベが獲れなくなったのか、手間がかかるからか、シャケが安いからかわからないが、シャケが入ってから、妙に姑息な感じがしたので買うのを控えていた。しかし、ヤマベの味が忘れられずに、買ってみたら意外と良かった。アッサリ、サッパリの川魚とモッタリ、タップリの海魚のバランスが絶妙であった。奈良の名物、サバの柿の葉寿しも近年、シャケを混ぜて誤魔化しているが、どちらも脂の乗った海魚なので緊張感がない。釧路駅の「いわしのほっかぶり」もひいきにしているが、最近、同じ海魚のイワシとサバを合わせたりしている方は緊張感がない。
 ヤマベからシャケに食べ替わるところが絶妙である。シャケからヤマベへと、逆に食べてはいけない。コハダの新子は、小さいものほど自慢しながら、恩着せがましく出されるが、同じように小さなヤマベを大事にしてほしい。大きなこと、豪華なことを引き立てるには、小さくとも渋く、味わい深いものが必要なことがよくわかる。とはいえ、一番嬉しいのは、この絶妙さを六百円で楽しめることである。ごはんの量は少ないので、駅の立ち食い蕎麦屋のお稲荷さんを買うのもいいが、三個二百七十円は、この「やまべ鮭寿し」と比べると安くはない。北海道だからと海鮮てんこ盛りの弁当ばかりでなく、イカ飯、カニ飯、カキ飯など地元の味を見つけるような弁当が増えてほしい。


住宅雑誌リプラン・130号より転載


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