ロングランエッセイ

Vol.118 ザラザラとツルツル

URB HOUSE PHOTO

ツルツルしたものよりザラザラしたもののほうが好きで、洗いざらしの木綿や麻などの素材感、阿波縮や絞りなどの触り心地が好きである。流線形の新幹線より蒸気機関車のほうに目がいくほうで、ツルツルピッカピッカのものが苦手である。ツルツルした表面は、光を反射してスッキリしてきれいで、写真映りは良いけれど、こちらの気持ちまではね返されるように思える。それに比べてザラザラした表面は、反射するかわりに吸収する感じで、こちらの気持ちを受け入れてくれるように思える。そのせいか、ザラザラした感じのするコンクリートブロックで住宅を造ったり、外壁に札幌軟石やレンガを積んだり、ざらっとした仕上げにすることが多い。室内で使う天然素材も、もともとザラザラしているので、ツルツルに仕上げることのほうが難しかったが、新しく開発され、工場で作られる人工素材は、ツルツルに出来上がることが多い。しかし、心を受け止めてくれるザラザラな天然素材に似せようと、ツルツルに出来上がった素材に、わざわざ模様を印刷したり、細かな凹凸をつけて、ツルツル感を無くそうと苦心している。
 近ごろ、住まいの壁を漆喰や珪藻土などの塗り壁にする人も増えているのも、このザラザラした壁に「住む人の心を、受け止めてくれる優しさがあること」に気がついたからだと思う。優しい壁は、迫ってくることがないので、部屋にやわらかみが出て心が安らぐ。これまでの塗り壁は、まず下地を塗って、充分乾かしてから仕上げを塗るので、時間と手間がかかって大変だったが、今は塗り壁の魅力にほれ込んだ人たちの努力で、数ミリの厚さで仕上げることができるようになったので、新しい現場で漆喰や土壁を使うことにしたが、出来上がりを楽しみにしている。このように、せわしなく時間が過ぎてゆく中、住まいの中にこそ、ザラザラした壁を造って、時間を止め、人の心を受け止めることも必要と思う。


住宅雑誌リプラン・133号より転載


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