ロングランエッセイ

Vol.119 北海道百年記念塔

URB HOUSE PHOTO

五十年ほど前に、北海道と命名してから百年目を記念して、高さ百メートルの記念塔設計コンペが行われた。全国から、著名な建築家を含む299点もの応募があり、北海道の井口健さんの案が一等となり、1970年に竣工した。
 普通の鉄は錆びると劣化して崩れるが、鉄の錆がそのまま固定されて進行しないコールテン鋼板を全面的に使ったこともあって、全国的に評判になった。竣工後22年目と29年目に大規模の修繕をして、大事に使われてきたが、44年目になって、外装の劣化などの理由で立ち入り禁止となっていた。
 昨年9月に、百年記念塔を見る機会があった。高さに比例するように、優雅に、そしてのびやかに広がる裾野の足元に1ヵ所、向こう側が見通せるトンネルがあった。トンネルの向こうで、わずかにキラリと光るものが見えたのが、札幌ドームの屋根だった。江別から羊ヶ丘が見えたのである。そのせいか急に羊ヶ丘が近くに感じられ、札幌の東に広がる地域を想像することができた。もっとトンネルに近づいて、藻岩山が見えてきたら、札幌の街全体を想像できたに違いない。さらに、開拓の初めの頃の札幌の原風景を想起できたかもしれない。
 遠くに百年記念塔を見る時、その周辺に広がる風景、街並み、さらには暮らしや歴史までに、想いを寄せることができるが、これこそ象徴、シンボルとしての働きであり、しばらく忘れられていた機能だが、忘れてはいけない。
 再建された熊本城も、城そのものより、そこに広がる熊本の城下町を想像させるという、シンボルとしての力があったからこそ、よみがえることができたに違いない。


住宅雑誌リプラン・134号より転載


コンテンツ