ロングランエッセイ

Vol.122 古い三角屋根

URB HOUSE PHOTO

コンクリートブロックで、住宅を造れるのは北海道だけである。北海道土木係長だった田中敏文が、1947年に知事に当選すると「北方生活文化の確立のために、寒地住宅の建設促進」を掲げ、防寒と耐火の性能を持った簡易耐火造ブロック住宅を考案し、融資をつけながら推奨してきた。一階は頑丈なブロック造だが、二階は木造の小屋裏を利用する造りで、標準型は二階未造作のままで、各自が必要に応じて造るようになっていた。
 札幌市の北、一団地のように40軒ほどが建てられたブロック住宅もほぼ50年は経っているので、家族の構成も変わっていて、少しずつ無落雪の木造住宅に建て変わりつつあるが、30軒ほど残っている。この単純な三角屋根の街並みを歩くと、道路に迫ってくる新しい二階建てと違って、空が大きく見えるので、春は一段と爽やかである。玄関前の花々も嬉しい。
 しかし、冬は三角屋根から雪が落ちるので、落ちる側に大きな窓が造れないなど不便で、この雪が落ちてこなければ随分と楽である。そのせいで、木造二階建てに建て替える人もいると思うが、近ごろこれくらいの勾配の屋根なら、雪を落とさない屋根材が開発されてきた。
 冬に、屋根の鉄板が見えるより、雪が積もっている方が暖かそうで、優しい街に見えるので、これを温泉宿の緩い屋根に使ってみた。本格的な冬を経験するのは、これからであるが、きっと満足できると思う。それを見てから、古い三角屋根のブロック住宅に使ってみたいと思っている。


住宅雑誌リプラン・137号より転載


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