ロングランエッセイ

Vol.124 階段

URB HOUSE PHOTO

最近の住宅は、断熱性能が良いので、吹き抜けを使った立体的な空間構成ができるようになった。居間に吹き抜けをつくって、そこに二階へ上がる階段を設けると上と下が一体になり、階段を上り下りしながら、視線の高さが変化したり、広がりを感じることができる。北国は、半年間雪に閉じ込められるので、その閉塞感を解放させるために必須であると思って、階段を中心にした住宅を多くつくってきた。
 札幌にある本郷新記念札幌彫刻美術館には、優しい階段がある。建築家 上遠野 徹が、彫刻家 本郷 新のために設計したアトリエ付きの住宅であった。れんが積みの暖炉が置かれている居間には大きな吹き抜けがあり、その脇に二階廊下につながる階段がある。これが、高齢になった本郷 新のためにつくられたのか、たいそう緩やかである。これだけ緩やかだと、暖炉前に座っている人も、ちょいと上ってみたくなる緩やかさで、まるで二階に誘うようなつくり方である。実際に上ると少しも抵抗がないし、下りるにも小走りになるくらい抵抗がない。しかし視点の高さが変わるたびに、気持ちに変化を感じる。一階と二階をつなげる吹き抜けのなかにつくられた階段の巧みさを見てほしいし、許せば上ったり下りたりしてほしい。
 しかしこの魅力的な階段は、今年の夏までは白い壁でふさがれて見ることができなかった。今回開催された「建築家上遠野徹と本郷新の宮の森のアトリエ」展覧会では、これを見せないと彫刻家 本郷 新にも建築家 上遠野 徹にも失礼であると注文を付けたら、館長の吉崎さんがあちこち掛け合って、邪魔な白い壁を撤去してくれたので、優しく魅力的な空間が再現できていた。彫刻家 本郷 新の彫刻だけでなく、建築家 上遠野 徹の建築空間の魅力を実感してほしいと思う。


住宅雑誌リプラン・139号より転載


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