ロングランエッセイ

Vol.125 「遺跡への道程」SASA

URB HOUSE PHOTO

 2022年秋に札幌芸術の森美術館で、日本建築家協会の「北海道の建築展2022」が催された。私が推奨しているブロック住宅の魅力を見せたいと思い、美術館の中にブロックを積もうとしたが、転倒などのリスクがあるということで不可となった。屋外ならブロックを積めるのではないかと中庭や前庭を考えたが、同じように見学者が触るリスクがあると言われた。断念かと思ったとき、なんと美術館の前にある池なら「ブロックを積んでもいい!」と言われ、とりあえず、いつもお願いしているブロック積みの名人・道下君を確保して、制作の日程調整に入った。
 池水を排出し、池の底に水平な基礎をつくり、曲がったブロックの壁を積み、再び水を張って、池の中にブロックが立ち上がったときには、身近にある遺跡の忍路環状列石を超えて、イギリスのストーンヘンジを思い浮かべた。遺跡を想起させる不思議な空間が、芸術の森美術館の池の中につくり出せたことに興奮したが、これは30年ほど前に建てた笹野邸、通称「円を内包する家」の基礎と円形部分の部分を、池の中に原寸の大きさで積んだもので、「遺跡への道程」SASAと名付けた。正方形の居間の中に4枚のブロック壁を円形に積み上げ、立方体と円柱の空間の相互貫入を試みたもので、まさしくこの家の「魂」である。基礎は、池の水の中にぼんやりと見え、水の上には、4枚のブロックの曲面の壁がキリッとしたエッジを見せながら立ち上がっている。揺れ動く水面に映る、白く見えるブロックは、独立しながら円形を強くイメージさせているが、水面は過去と現在の境界を表しているようにさえ見えた。
 「魂」を持つブロックの家は、どの家も「遺跡への道程」を進むに違いないと思った。


住宅雑誌リプラン・140号より転載


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