ロングランエッセイ

Vol.127 熟成した街並み

URB HOUSE PHOTO

40年ほど前に、倉本龍彦、宮下 勇、小室雅伸と私の4人の建築家で、24区画の建売住宅販売に挑戦した。いつもは、建てる人の話を聞いて設計するが、建売住宅では、建てる人の話を聞かずに設計するという。4人でじっくり、合宿しながら話し合うことにした。
 まず、個性的な家で街を作ろう。家の周りを丁寧に作ろう。人しか通れない抜け道を作ろう。ともかく、それぞれの家を目一杯に建てず、お互いが譲り合った感じになる配置と向きを考えながら、全体計画をまとめた。建売住宅の会社の方針で、モデル8軒を建売住宅とし、残りはモデルをアレンジした住宅に変更されたが、すべての区画に住宅が建って、新しい街並みが生まれた。
 40年近く経った今年の夏、久しぶりに訪ねてみると、ほとんどそのまま残っていた。当初から住み続けている家が18軒で、持ち主が変わった6軒も、手を加えながら使われ続けていたので、感激した。真新しかった建売住宅の街並みが、落ち着いた感じになり、山鼻あたりに負けない街並みになっていた。この街並みを熟成させてきた住民の方々にお礼を言いたいし、この街並みを積極的に自慢してほしいと思った。さらに、これからも誇りを持って、この街並みを育ててほしいと思う。
 街づくりや街並みづくりは、竣工した時でなく、熟成されて魅力的になった時にこそ、評価されるべきだと思う。イギリスの田舎にある集落は、そこの街並みやそこに住む人たちで評価され、その集落にある家の価値が決まるという。それなら、ここに並ぶ家には高い評価が付くに違いない。


住宅雑誌リプラン・142号より転載


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