Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.4「家庭」
写真
 11月半ば、小雪がちらつきそうな日、庭に出したイスに腰かけ満天の月を見ながら、オンザロックを飲む人がいる。アウトドア志向の彼の家には、夏の居間と冬の居間がある。
 冬の居間というのはいわゆる居間である。夏の居間というのは、庭に枕木を敷き並べて造られた屋外の居間のことである。ここは、庭の高さより60cmほど掘り下げて造られ、三方が自分の家の壁に囲まれているため屋内と言っても良いほど落ち着いた雰囲気がある。そこに置かれたテーブルについて挽きたてのコーヒーを飲む時など、まさしく夏の居間と納得させられる。この寒さの中、彼はダウンジャケットを着てこの夏の居間で、星空と酒を酌み交わすのだという。巧みに配置された樹木に守られながら、冷たく澄んだ空気のなかで、高ぶる気持ちも次第に透明になってゆくことに違いない。
 わが家を直したついでに、部屋からすぐ出ることのできる木製のデッキを造った。隣の家の屋根の高さであるが、受験勉強に疲れた娘は深夜ふいにデッキに出る。私も家に帰ると必ず一度はデッキに出て、回りの家々の灯りを確かめ今日も代わりがないナと思う。
 木製のスノコのデッキだから、そのまますっと出られるがサンダルをいちいち履くようでは、面倒くさいから出ないだろうと思う。デッキからの見晴らしはグルリと良いが、目隠し程度に板を貼ってみたら囲まれた感じになってすっかり落ち着いた雰囲気になった。外にある8畳間と呼んでもよい。今年はテーブルセットを買わないうちに雪の季節になってしまったが、来年は星を眺めて杯を傾け、固くなってきた頭に透明な風を送り込みたい。
 家庭は、読んで字のごとく家と庭があってはじめて家庭として成り立つと、昔いわれた記憶があるが、わが家にもこの外の8畳間をもってからようやく、庭の意味がわかったような気がする。

住宅雑誌リプラン・19号より転載
Go to INDEX

Go to HOME