Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.7「波照間」
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 日本人の住む最南端の島―波照間島に出かけた。赤瓦の家と石積みの塀と福木(注)の美しい集落の残っている島である。沖縄本島までも遠いけれど、そこから石垣島まで飛行機で50分、さらに波照間島まではプロペラの双発機に乗って15分ほど。高速船で行くと1時間かかるといわれたが、せっかくだから南の海を眺めながら船で行くことにした。
 はじめは波静かな珊瑚礁を走る船の速さと海の色の明るさと美しさに感激していたが、30分過ぎたあたりで外洋に出たため、うねりが激しくなり突然体が宙に浮いた。そのうえ、見渡すかぎり海というところでエンジンが不意に止まった。私は泳げないので不安になったが、すぐにエンジンが動いたのでほっとした。大きなうねりの時は、うねりの頂上でエンジンを止めるのが安全策だという。さすがに、波との折り合いのつけ方がうまい。まるで、海を手なずけているようにも見えた。
 この島に住む人たちには、自然の力を素直に受け入れそれを活かす智恵とおおらかさがあるように思えた。この島が神の島といわれるのも、古い信仰様式が残るのも、この智恵とおおらかさがあるからに違いない。赤瓦の家も、石積みの塀も、福木の並木も、暑さや台風に対する智恵の一つであり『自然に優しい』智恵である。
 北海道では、寒さと雪を眼の敵のようにしてきてしまったが、波照間の智恵とこのおおらかさを見習って、もっと自然と馴染んだ風景を造り出したいと思う。

(注)フィリピン原産の高木。葉は広い楕円形で革質で強靱な特性を持つ。風に対して強い性質を生かして防風の目的で生け垣として利用される。

住宅雑誌リプラン・22号より転載
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