Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.15「既存不適格」
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 古い建物には、新しいものにはない何とも云えぬ風情があって好きである。その風情を残しながら、古い建物を改修・改造することを人にも勧めていたが、阪神大震災でコンクリートの建物が沢山潰れたのを見て、古い建物の構造的な強さに不信感を持つ人が多くなってしまった。
 建物の構造基準は、この25年間に地震の度により安全なものへと進歩してきた。十勝沖地震で、函館大学の校舎の一階の柱がすっかり潰れたが、それらを教訓に鉄筋の量を多くするなどの改善、指導がなされた。その後も、地震に強い建物の基準の検討を重ねて、昭和56年に「新耐震」と呼ばれる基準が出来上がって、この基準に合った建物は今度の地震での被害は少ない。
 簡単に云うと15年くらいしか経っていない建物は、頑丈と云っていい。それ以前に建ったものは、今の基準に当てはまらないので構造的に弱い。しかし建てるときの基準に合わせて造った建物が、後から出来た基準に合わないのは仕方がないので、「既存不適格」の建築と呼んで、そのまま使うことが許されている。
  50年前の建物も100年前の建物でも使うことが出来るが、これを増築、改築するときは、新しい基準に合わせるように指導される。そのための補強工事が大変なので、建て替えてしまうことが多いので土地の歴史を感じさせてくれる、古い建物が失われて味わいのある街が消えてしまう。
 「既存不適格」の建物を活かして、街の歴史を感じさせる景観を造りたいものである。

住宅雑誌リプラン・30号より転載
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