Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.17「銀貨」〜ぎんか〜
写真
 今年は雪が多い。
 除雪車のなかなか廻ってこない巾の狭い道路は2本のわだちしか出来ないので、小路のなかを走れるのは1台の車だけである。小路の向こうに1台車が見えると持つようになる。どの家も車があるので、家の前の除雪も大変である。
 間口いっぱい雪の山である。そのために少しでも除雪の苦労を少なくしたいと、道路ぎりぎりに車庫を置く家が多い。家の玄関は見えなくともスチールの車庫だけは見える。そんな家の多い小路に入ると車庫ばかり見え、家並みではなく車庫並みという方が正しい。
 それでは哀しいと、わが家では木製のルーバーを設けて車庫替わりにしている。ルーバーだから、雨も雪も隙間から落ちるのだが、雪が多めに降るとルーバーの桟に積もった雪がとなりと連なってくっついて落ちない。一度連なると春まで落ちない。1m以上も積もってルーバーの下の雪は少ない。冬だけの屋根だから、うっとうしくなくて爽やかである。
 便利なだけではない。春の湿った雪のときは思いもかけない美しさを見せることがある。ルーバーの柱と梁にまとわりついた雪が、不思議な梅雨っぽい造型を見せたことがある。雪のことが白い花、銀花〜ぎんか〜とも呼ばれるということは知らなかったが、なるほど、これも大輪の銀花かと思った。
 初めて見たことで唯々驚いたが、もう2度と見られないと慌てて写真に写した。何とも云われ難い造形でこんなに身近に自然の持つ魅力、造型の力を見ることが出来るとは思わなかった。砂漠の風紋や樹氷に匹敵すると、思わず興奮してしまった。
 まさに大輪の銀花と呼ぶにふさわしく、まるで厚ぼったい雪の蘭のようにも見えた。それも、私の家だけ咲いた。
 受身いっぽう、便利な金属製の車庫には、雪と風が作った花・銀花は咲かない。もう少し風流に風雅にいきたいものである。

住宅雑誌リプラン・32号より転載
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