Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.24「聖ミカエル教会」
写真
 日本の近代建築の発展に貢献した米国の建築家の作品が札幌にある。アメリカの有名な建築家フランク・ロイド・ライトの弟子でアントニオ・レイモンドの設計した聖ミカエル教会である。
 信者の寄付によって建てられる建物のため、十分な予算があるわけではないが、当時使われていた素材の良さを活かし、優れた建築に造り上げられている。瓦棒の鉄板屋根、手作りの木製の開口部、煉瓦積みの外壁、モルタルの床、内部のベニヤの壁とどれを取っても高価なものは無い。丸太を斜めに飛ばしながら造る小屋組と違って、大層難しい小屋組であるが、うまく造られているので、空中に飛び交う丸太が爽やかに感じる。
 アルミやプラスチックの窓、ペア硝子やグラスウール、ましてや防湿シートや防風シートなどの売られる前であるから、断熱性能や気密性などは良いはずが無い。しかし、丸太によった三角に立ち上げられた空間は、単純明快でありながら、静謐感の溢れる宗教空間となっていて、人に感動を与える。
 そこには、新しい素材と技術の開発によって、「簡単、便利。気持ち良い」生活を手に入れた今の建築に無い、いさぎよい美しさがある。このいさぎよい美しさは、ものによって生まれるものではなく、造る人の心のいさぎよさから生まれたにちがいない。
 また、この教会のステンドグラスは、障子紙を硝子に貼っただけであるが、丸太の小屋組とベニヤやモルタルの床という廉価な素材のなかで、爽やかな魅力を放っている。このように廉価な素材によって造り上げられた、美しい空間に居ると、高価な素材を使うことが、罪にさえ思える。建築の原点に戻って、素材の持つ良さを見極める力と使いこなす才能を問われる時になった。

住宅雑誌リプラン・39号より転載
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