Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.55「丘を造る」
写真
 オランダのデルフト工科大学の図書館は、ゆるやかな丘に埋まっているように見える。図書館の屋上をゆるやかな丘のように造って、芝生を張っているので、もともとそこに丘があったように見えたのである。丘のまんなかには、図書館に光を入れるための円錐形の塔が建てられている。誘われて丘を登り塔の近くまで行ってみると、塔と屋上の間が離れていて隙間にガラスがはめ込まれており、そこから図書館のなかがのぞけるようになっていた。丘を下り、丘を掘り込んだような入り口からなかに入る。なかの天井は、丘の形に沿ってゆるやかに、のびやかに広がり、まんなかには白い円錐形の壁が下がっていた。屋上の塔の下の部分の延長である。白い壁に反射しながら、末広がりの壁と天井の間から差し込む光が、図書館の中央に明るさを与え、空間全体を優しい雰囲気にしている。国じゅうが平らだといわれるオランダなので、周りを見渡せる丘が欲しいと思ったのかもしれないが、ここでは環境を考えて屋上を緑化し、全体をコンパクトに造ることを心掛けながら、建築の新しい魅力を創り出している。
 いま、環境に優しい建築として、省エネルギー、屋上緑化、太陽熱利用を採用しようといわれ、新しく開発された設備を今までの建築の外側に、あわてて取り付けてお茶を濁すことが多いなかで、もっと基本に立ち戻って、新しいものを造りだすことを考えることの大事さを教えてくれている建築だと思う。

住宅雑誌リプラン・70号より転載
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