Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.56「合掌造り」
写真
 岐阜での会議の後、民家を訪ねるツアーに便乗した。岐阜を出て郡上八幡に一泊して、白川郷から飛騨高山を巡るコースである。なかでも木造民家として、特異な白川郷の合掌造りを見たいと思った。合掌造りとは、手を合わせてから、手元を少し広げた形のことを言うが、その大きな屋根の萱を葺き替えるために、たくさんの村人が傾斜の急な屋根に、へばりつくように作業している写真が印象に強く残っていたからである。バスが、小雨降る山道を進むなか、その特徴的な集落は山奥に忽然と現れた。それまでの街道筋に沿った歴史的な古い街並みの風景と異なり、何処でも見たことのない風景であった。内地には少ない散居型の集落で、どちらかというと北海道の酪農村に近い居住形式である。木曽の山奥の雪も深く、寒さも厳しいけれども、そのなかにあって凛と立ち尽くす姿に驚いたし、感動した。冬には深い雪に埋まるというが、その寒さのなかでも堂々と対峙している姿を思い浮かべた。そのもっとも雪の深い時にこそ、もう一度来なければいけないと思った。
 日曜のせいもあって、たくさんの人が訪れていたが、堂々とした建物の裾のあたりを徘徊する蟻のようにしか見えず、いつまでも見下ろされて居るような気がした。と同時に、この厳しい環境のなかで、ここに住む人たちをしっかり守っている。それも、ひとつではなく林立する合掌造りの家がまとまって、ここに住む人たちを守っているように思えた。そこには、ひとつの集落としての一体感が生まれていて、集落全体が頼もしく思えた。こんなに強く頼りになるふるさとは、他にあるのだろうか。この地を離れた人に聞いてみたいと思った。

住宅雑誌リプラン・71号より転載
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