Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.57「また来ます」
写真
 「大理石がいっぱいあってびっくりした。川でいっぱい遊んで楽しかった。また来ます」。  長いテーブルに置かれたノートには、アルテピアッツア美唄にきた人たちのたくさんの想いが書かれている。窓の外には緑の芝生の中に白い大理石の二つの彫刻がきりっと立ち、その足元から白い小さな丸い大理石を集めた流れが始まっていて、脇には大きめのまん丸な池もある。ゆったり並んだ椅子に座って風景を見るうちに、身体が風景になじんで、しだいに溶けこんでしまうと、立つのを忘れるくらいに和んでくる。
 「一人で来たほうが良かった」と思う。
 アルテピアッツア美唄が造られることになったのは、彫刻家・安田侃が二十年前に美唄市の廃校になった小学校の古い体育館をアトリエにしたことがきっかけだった。それから少しずつイタリアから彫刻作品を運んできて、すえていくうちに、作品は四十を超えた。その彫刻をすえるときに「この彫刻が、大地に置かれる瞬間、アルテピアッツア美唄の空気が吸えるかどうか、この地で生きていけるかどうかの分かれ目になるような気がしてドキドキする。ほんとに、子供たちが一緒に遊んでくれるだろうか?と思う」という繊細さで彫刻の位置を決めていったという。古い木造校舎だけでなく、一本の木や造られた丘の形まで繊細に考えられているので、彫刻とそれの置かれる空間には絶妙な、そして優しい間合いが生まれている。しかしここアルテピアッツア美唄に漂う、他では感じられない、はかりしれない優しさは只者ではない。ここに来た人たちの優しくなった心が、アルテピアッツア美唄の優しさをさらにのびやかな優しさに変えていくのだと思う。
 ここは、建築をめざす人は体感しなければいけない空間です。
 「雪降る夜に、ひとり空を見つめているような心地になります。何か大きな懐かしいものに出会えた気がして立ち去りがたいのです」。

住宅雑誌リプラン・72号より転載
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