Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.61「冬の簾(すだれ)」
写真
 雪の金沢は美しいというので、この二月に金沢で会議を持った。今年は暖冬のせいで北陸の温泉場も雪がなかった。しかし、その晩たっぷりの雪が降ってくれた。朝にはやわらかな新雪がふんわりと木々をおおって、北海道とはひと味違った優しい雰囲気の「うっすらと薄化粧をした」という風情で、どきどきするようだった。その夜に案内された創業二百五十年の店も、伝統を踏まえた立派なつくりの大店だった。そこの紅柄格子を通して見る雪の降りしきる景色も、しっとりとした心地がした。
 数年前に十五年ほど経つマンションを塗り壁や紙障子を使って、和風にしつらえ直したことがある。冊子に掲載する写真のために久しぶりに訪れたら、ベランダに立派な灯篭が立っていた。さらにその外側に細い丸柱が五本立っていた。強い西日を避けるための簾を下げる目的でつくったという。札幌も雪の気配であったが、簾を付けて写真を撮ることにした。簾を取り付けたとたん、それまで間の抜けたように立っていた灯篭が、簾をバックに見得を切るように見えた。
 「よーっ、灯篭!」という感じである。ベランダから見える周辺の景色がかすんだせいでもあるが、窓の外側にもうひとつの濃密な空間が生まれたせいである。わずかに雪をかぶった灯篭は、金沢の新雪が降ったあとの風情を思い出させてくれた。
 住みはじめてから、少しずつ自分の好みを活かして手を加えていくと、その人の人柄がにじみでて、その人らしい住まいになる。住まいのなかのものを自分好みに躾けられている住まいに入ると、その人の懐に入ったような感じがする。
 住まいも住んでからが勝負なのです。

住宅雑誌リプラン・76号より転載
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