Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.9「葉枯らし」
写真
 雪の季節が終わると、温かな陽射しに誘われるように、樹の芽がふき始める。柔らかな芽は日に日に大きくなり、葉脈のしっかりとした葉になる。晩秋に枯れて落ちるまで、葉は掌を広げるように太陽を受け、水分を蒸発させて樹の成長のために働く…。
 そうして造られた年輪は、葉の働きの1年間の成果であり記録である。年輪が細かくたくさん入った木材を見ると、それを造るために散った山のような枯葉を思う。そのうえ、枯葉は堆肥、養分となって、さらに樹の育つのを助ける。
 四国の徳島で、樹は葉から造られることに注目して『葉枯らし』という方法で杉材を造る人に会った。昔からある製材法だというが手間が掛かるので、見捨てられていた方法らしい。樹を伐ってもすぐに運び出さないで葉をつけたままその場に置いておく。葉が残されているので水分が序々に、万遍なく葉から蒸発してゆくから材木としては均質なものになるという。かたよった乾燥をしないので、反りがすくなく、梁や柱のような大きなものに使えるという。
 2,3か月寝かせてから枝を払って山から降ろすというが、伐った樹を寝かせておく期間は、大きさや樹の形で違う。乾燥させすぎては艶がなくなる。梅雨の時と秋晴れの頃では当然違うし、日陰と日向でも違うという。まるで伐った樹を生きているように扱う。
 経済的に使うことばかり考えるより、樹の持っている性質を巧みに利用する技術を考えることが大切だと教えられたが、彼はまだ30代で楽しみである。

住宅雑誌リプラン・24号より転載
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