Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.46「楊柳亭」
写真
 大正十年に移築された、楊柳亭・雨山茶席と呼ばれた茶室を見た。四畳半台目という大きさで、洞床という珍しいタイプの床の間を持つ、意欲的な茶室である。茶室というのは、眺めることより、使ってみることが大事と、八十年前に造られたこの楊柳亭でお茶会をしてみたが、やはりそのお茶室のなかで頂いた薄茶は格別であった。
 にじり口から入ると低く造られた天井さえ、心地よい高さに感じられ、細みの柱や木の造作は優しく、塗り壁はしっくりした味わいをかもし出し、しみじみとした雰囲気となっている。あたりをゆっくり見回すと、どれもがきれいとか立派ではないが、時を刻み込んだ、少し汚れたような味わいを持っている。外の明るい陽射しの爽やかさとは違って薄暗いけれど、時間が経つほどに自分達の心が安らいでくると、次第に周りの空気にゆるやかに馴染んでくるように思え、狭い茶室のなかにさえ、広がりを感じる。
 お茶を飲むことより、その空間での体験こそ、時が造り出した魅力を体感したことこそが、大切であった。
 この茶室の魅力は、永い間使い込んできて初めて生み出されたものである。竣工した時からその先、魅力が落ちてゆくばかりのものが多いが、使いこなすほどに魅力の高まるものを造らなければいけない。楊柳亭こそ、良い見本である。
 しみじみとした時間を持つ楊柳亭の空間を、残したいものである。

住宅雑誌リプラン・61号より転載
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