Essay by Maruyama/連載エッセイ

vol.48「大原邸」
写真
 昭和の初めに、英国の邸宅を見本にしながら建てられた大原邸は、シャーロック・ホームズとワトソン君が事件解決のために訪れる邸宅のような雰囲気をもつ。大きな屋根が特徴的で、ほぼ四階分の高さの大ぶりな木造の住宅である。居間の南側には、いま流行のコンサーバトリィという温室のようなスペースも造られており、二階には、かつて藻岩山が見渡せたという六角形の展望室もある。天井の高い居間には、とてつもない迫力の暖炉がデンと納まっているし、それぞれが大ぶりで、コセコセとしたところがなく、鷹揚な造りである。食堂と厨房の連絡を取るためには、伝声管という潜水艦の中で使われるようなものを備えるなど、面白い試みもある。
 さらに洋館の南側にある庭は、大ぶりな石組みと池を中心にした堂々としたものである。「こんなに大ぶりで、おおらかな感じの庭こそ、北海道にふさわしい。内地のコマコマした庭は北海道に似合わないよな」と造園家に聞くと、「最初はコマコマしたものだったに違いない。長い期間、雪や寒さに晒され、この土地に合ったものだけが残って、この姿になったと思う。だから、この庭は北海道の風土に根付いた本格的な庭といえるんじゃないか」という。そうだ。長い時間と手間を掛けて、風土に合うよう、そう造り上げてきたものを大事にしなければならない。長い時間が経っても、魅力を失わないものを創らなければと思う。
 この大原邸が取り壊され、その後には高層のマンションが建てられると聞いた。十八年程前に、札幌円山地区に残る美しい昭和の住宅を調べまわって、スケッチを描いたりしたが、それらの魅力的な家が近年続々と消えていった。そのなかでも、もっとも貫禄のある横綱格の大原邸が消えてしまうことは大変残念である。最後の砦が陥落するようで、大変悔しい思いである。北海道で、このような住宅が二度と建てられることはないだろうから、その最後の姿を眺め、別れを惜しんで欲しいと思う。
追伸:残念にも、(2004年)11月18日より解体工事が始まり、もう姿を見ることができなくなってしまいました。合掌

住宅雑誌リプラン・63号より転載
Go to INDEX

Go to HOME