Essay by Maruyama/連載エッセイ

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 三十年以上もススキノに出入りしているが、さすがに回数は少なくなった。その頃から付き合っているすし職人がいる。三年ほど前に独立して頑張っていたが、息子がすし屋を継ぎたいという一言に感激して、大きな店にするという。内装の設計はほとんどやらないが、長年、気心を知っている間柄なので引き受けた。忙しくなる忘年会時期に間に合うように出来上がった。移転したこともあって、年末はほとんど休み無く営業したが、常連さんからの評判も悪くなくて安心した。
 まだ設計料をもらっていない。いや、決めていない。普通の住宅の場合、設計料の目安は大きさにもよるが、おおよそ一割程度としている。私の場合は「二割らしい」とか、「一億以上しかやらない」とか、「坪百万円以上しかやらない」という噂をたてられることがあるが、そんなことは無い。きちんと実情に合わせた設計料を決めている。もちろん、そういう仕事も断りはしませんが。
 図面を書いて、見積もりをして、相談して工事に入ったが、厳しい予算なので、「もし工事でお金が無くなったら、現物支給でどうだ」という冗談も出た。
 「私が生きている間、食べさせてくれるっていうのはいいねーっ。長生きしようと思うしさ。病院に入っていて、もう危ないというときにも、病院を抜け出してきて、板前でさばなんか食べて戻っていくなんていいね」と笑った。
 だんだん、この現物支給のほうが魅力的に思えてきている。今度は、イタリアン、フレンチ、和食、喫茶などもやって、それぞれ現物支給を受けるのも楽しそうだし、でも、そうすると現物がおいしくないといけない。「まず試食をさせてもらわないといけないな」などと余分な心配をしているが、忙しさが一段落したら、設計料を決めようと思う。

住宅雑誌リプラン・80号より転載
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